政情不安が長年叫ばれ続け、そのエリアの大多数が世界最貧民国に数えられる場所、西アフリカ。
中でも民主的な政治体制が敷かれていると言われていたマリ共和国において、つい先日、クーデターが起こった。
一部ニュースで報じられてはいるものの、その現場に住むモノとして今回のクーデターの経緯とその背後に潜むもの、マリだけではなく西アフリカの将来について思うことをつらつらと書いてみようと思う。
概況
21日昼に北部地域の戦闘に関してデモが発生。
その集団が防衛大臣の対応に不服としてマリ国営放送局を占拠し、同日夜、関連勢力が大統領府を襲撃、大統領近衛兵との戦闘の末、22未明には大統領府の占領が完了し、クーデターが一応成功した、とのことのようです。
流れを見ていると突発的な行動のようにも見れますが、連動する形でガオ(北部地域の戦略拠点)の軍長官が追われていて、事前準備の有無や反抗勢力(クーデター側)の様子がまだ見えてきていません。
しかし彼らはTVでの声明発表の様子を見る限りまだ若く、一部ニュースでも青年将校とも称されています。軍幹部の腐敗に対する不満、というものもかなり高かったようです。
なぜ今か、というのは北部の戦争の緊張状態が極限に達した、というのが一つの答えだと思います。
そして、4月末の大統領選挙前に、民主的な選挙の実現を狙った、という可能性も捨て切れません。
ちなみにこの週末はムサトラオレ軍事政権(過去のクーデター政権)が倒れた日のようで、その辺も若干の関連があるのかもしれません。
そしてもう一つは突発的な、衝動的な行動。やはりこの可能性も捨て切れません。
ではつづきから、詳しく分析して将来を勝手に思ってみよう。
背景
- 現在の政権は現大統領が5年×2期率いたもの。3選は憲法で禁止されている。この4月末に大統領選挙が予定されている。
- 90年代にマリ北部地域の遊牧民族トゥアレグ族が独立紛争を行なっていたものの、現大統領が停戦(実態は金に依る?)合意、武装解除させていた。
- 貧富の差が激しく、政治家や高級官僚の横領、利権への不満は高まっていた。(世界からの援助関連資金もほぼこの層が横領し、現場にはあまり届かない)。政治家の給料は月に日本円で100万円(!?この国は物価が実感値として5分の1くらい)との噂も。
- トゥアレグ族がリビアのカダフィ大佐を支持していた関係で、大量の武器弾薬を同国から持ち帰り、最近再度独立を目指しての紛争を開始した。
- 今年に入り、軍部に依る大規模なトゥアレグ制圧作戦が展開するも、トゥアレグ族の所持する武器が最新で強力なために苦戦を強いられている。敗色濃厚ながら国営放送は事実を報道せず、兵士の家族が情報不足を不服として2月にデモが行われ、一部で道路を封鎖しタイヤを燃やすなどの過激な行為も行われた。
原因と経緯
- 対トゥアレグ戦争における戦備の拡大を要求した軍部が、防衛大臣と話し合いを持つ。(21日昼)
- 話し合いが物別れに終わり、エスカレートした青年将校が大臣に石を投げつけるなどデモを開始、空に向けて空砲を撃つ。(21日午後)
- 国営放送を占拠(21日夕方)し、夜間に丘の上にある大統領府に向けて進軍。(同夜)大統領側近の兵と銃撃戦に。ルートにある市街地でも銃撃戦が散発的に起こる。大統領は安全な場所に逃げたとされる。
- 前夜から国営テレビ局を占拠していた、CNRDR(政府とデモクラシー復興のための国家委員会)と名乗る一群の武装兵士が画面上に現れ、スポークスマンのAmadouKonare中尉と名乗る人物が、戒厳令と憲法及び法律一時停止を発令しました。北部の問題を解決できないATT大統領率いる現体制を終焉させることを目的として挙げ、平和の回復まで政府軍の全ての部隊の協力の下、臨時政府を設置すると述べている。(22日未明)
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CNRDRがTVで繰り返し行なっている主張は
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この状況に乗じて強盗・略奪行為に走らず、自宅待機するようよう国民へ注意喚起
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未だCNRDRに合流していない部隊への早期合流の呼びかけ
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新政府の民主設置迄の期間、従来の行政機関が業務を継続して行うことを指示
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行政機関の業務再開は3月27日(火)7h30からとし、特別な理由の無い欠勤はボイコットと見なす。
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- フランス、EU、アフリカ連合は、今回のクーデターを糾弾、民主体制の早期復旧と、4月29日に予定されていた大統領選挙の早期実施を呼び掛けている。
反抗勢力の主張
- 政府が同国北部のトゥアレグ族の反乱を抑えることが出来ていないことを理由に、現大統領の権限は既に失効している。
- 将来の選挙で選ばれる政府に対して政権を移譲する用意がある
近況とメッセージ
反抗勢力は前述のように青年将校が中心となっている関係上、指導力や求心力に不安要素があるようです。
事実、TVで声明を発表しているメンバーを見ると、まだ若いことと漲る様な自信がないことが、不安をあおる一員となっているように感じられます。
そしてアフリカ連合やEUなどからは反抗勢力を認めない旨の声明が発表されている。
(個人的にはこういった内政干渉が余計現場を混乱させる原因となっている気がしているが)
こういったことが背景となって、一部兵士による商店への略奪が起き始めているようだ。反抗勢力が軍を掌握しきれていない。
既にクーデター成功、と報道されてから丸一日以上経つにもかかわらず、依然として街は銃声に満ち溢れている。
(ちょっと言い過ぎた。散発的に銃声が響き渡っている)
こうして私たち外国人はみな、自宅待機ということでおとなしく引っ込んでいるしかないのが現状です。
そして窓の外を窺いつつ、ネットでニュースを見るしかないのです。
しかし多くのニュースとして流れているが、不正確で誇大な情報が飛び交っていて、現場の人間としてはどうかとも思っています。
日本語ニュースはまだ少ないが、どうか情報に一喜一憂せず、現地の人間の言葉を聞いてほしい。
確かに銃声は響いています。が、不要な外出を避けて屋内にいる以上、現在の状況では身に危険はありません。短期的には正しい対処で対応できる問題です。そして、街中で市民は(ややおびえながらも)普通の日常生活を送っています。
反乱軍、と言われていますが、TVで演説しているのを見るかぎり、彼らは理性的で平和的な対応をとっています。無作為に市民を傷つけるというようなことは全く念頭にないと見れます。
武装蜂起という手段が絶対悪だ、と決め付ける前に、この国の現状をよくみて、政治家や政府高官、軍幹部といった権力者たちの振る舞いを見た上で状況を把握しようとすると、違った側面が見えてくると思います。
長期的に見ると数日、数週間後にまだ、何が起こるかわかりません。現在も多くの主要人物を集めて会議を開いている、との情報があります。
決して現状を油断しているわけでもなく、冷静な現状分析の元、ココに住むモノとしてのメッセージです。
どうか過剰な心配はしないでください。
西アフリカを思う
昨年の北アフリカで起こったアラブの春の影響もあると思うが、それにしてもこの西アフリカ諸地域は、選挙の度に揉める。
コートジボワール、ニジェール、ブルキナファソ、セネガル、そしてマリ。少し離れてナイジェリアまでも本当に地域全体、選挙の度に問題が起き、内乱状態に陥っている気がするのだが、いったいそれはなぜか。
セネガルの状況を見ていると、有権者登録票が売りに出ている、情報が届いておらず有権者としてカウントされていない、教育が不足してそもそも選挙に興味がない、などがわかり易い問題だと思う。他にもさまざまな根深い要因の難しい問題はあるのだろうが。
結局のところ、権力者、富める者が弱者を搾取するモデルが大前提で、上が変わろうがそれは変わらない、という現実に市民が疲弊している、ということもあるようだ。
実際、マリ人ではこうして『上』に対する不満とあきらめが充満しており、しかしそれを解決するための手段もそれを考えるための頭も自分たちにはない、というのが大多数の意見。では勉強して学を身に着ければ、といったところで大学を出ても就職の口がない。そもそも学校での学習内容が充実しておらず、効果は薄い。結局のところ、教育の改革が必要だが、改革をする側は当の権力者側で既得権を守る観点からも遅々として改革は進まない。
究極的にはIT屋である私の視点としては、ITの普及による自発的な学習の浸透を期待したいところだ。
参考
非常に多くのニュースサイトや周囲の情報を参考に書かせていただいておりますが、中でも日本語での詳細な情報源として、こちらのご紹介させていただきます。
西アフリカのマリ共和国でクーデターが起きている。(2012/3/22) =ニュースを読まねば=
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